診察・研究活動Consultation and Research Activities

脳血管内手術(治療)カテーテルを使った、体に優しい脳外科手術

長崎大学脳神経外科 堀江信貴(脳神経血管内治療専門医・指導医)

長崎大学病院は日本脳神経血管内治療学会研修施設に指定されており、精力的にカテーテルを用いた脳神経外科手術を行っています。

1.脳血管内治療とは

脳神経外科手術は開頭手術(頭蓋骨を一部切り出して脳の手術を行う)が一般的ですが、近年は手術器具や放射線診断機器の発達により、開頭しないで治療を行うことができる脳血管内手術が急速に進歩しています。

上図のように人の血管は全身で繋がっています。脳血管内治療はカテーテルという細い管(チューブ)を足の付け根にある血管や手の血管から挿入し、遠隔操作で脳血管から脳の病気を治療します。対象となる病気はくも膜下出血(破裂脳動脈瘤)、未破裂脳動脈瘤、頚動脈狭窄症、急性期脳梗塞(心原性脳梗塞)、脳動静脈奇形(AVM)、動静脈瘻(AVF)、脳腫瘍の栄養血管塞栓、など様々です。心臓のカテーテル検査(治療)を受けた方がいらっしゃると思いますが、同様の治療を脳領域でも行っています。

2.長崎大学病院の特徴

長崎大学病院では脳血管内治療を専門とするスタッフを抱負にそろえており、脳神経血管内治療指導医が1名、専門医が3名在籍し、年間約120例の治療を行っており、症例数は増加傾向にあります。長崎大学病院の特徴として、豊富な症例数だけでなく、脳卒中内科医、放射線科医との連携が十分に確立されているため、よりレベルの高い医療、治療成績を提供しています。また脳神経外科手術において開頭手術と脳血管内手術の特徴を十分に考え、いずれかに偏ることがなく、バランスの取れた治療ができていることも長崎大学病院の大きな特徴です。国内外での学会活動や論文活動も精力的に行っており、数多くの受賞をいただきました。

3.代表的な脳血管内治療のご紹介

脳動脈瘤(くも膜下出血、未破裂脳動脈瘤)

脳動脈瘤は100人に1人の割合で見つかり、脳ドックでたまたま発見されることも少なくありません。脳動脈瘤が破裂するとくも膜下出血を来たし、重篤な後遺症を残すことや、命を落とすことがあります。長崎大学病院では破裂脳動脈瘤、未破裂脳動脈瘤いずれにおいても開頭手術(開頭クリッピング術)と脳血管内手術(動脈瘤コイル塞栓術)のどちらが適切かを個々で検討しています。脳血管内手術(動脈瘤コイル塞栓術)が適している症例においては足の付け根からカテーテル、さらに細いマイクロカテーテルを動脈瘤内まで挿入し、動脈瘤内に金属のコイルを充填することによって再破裂(破裂)を防止します。破裂脳動脈瘤の場合はくも膜下出血自体に対する治療が別に必要ですが、未破裂脳動脈瘤の場合では脳血管内手術を行った場合、約1週間の入院で済みます。

急性期脳梗塞(心原性脳梗塞)

心臓の不整脈(心房細動)が主な原因となり、血栓(血液の塊)が心臓から脳血管へ流れ、閉塞させてしまう病気です。閉塞した場所にもよりますが、再開通(血液の流れが戻る)しない場合、重度な後遺症が残ります。このような病気の場合は迅速に診断を行い、出来るだけ治療に結びつけることが大事です。”Time is Brain”と言われるとおり、時間との勝負になります。長崎大学病院では脳卒中ホットラインと呼ばれる救急システムを長崎市内で構築し、年間500名近い急性期脳梗塞症例を受け入れております。脳梗塞の原因が血栓に起因し、かつ治療の適応がある場合はすぐに治療に移行します。血栓を回収する特殊なカテーテルを用いて再開通治療を行っています。

治療前(a)と治療後(b)では閉塞血管の再開通が得られています。矢印の箇所は血栓が詰まっている箇所です。患者さんは後遺症なく退院しました。道下に示しているものは回収された血栓です。

頚動脈狭窄症

首の動脈(頸動脈)は動脈硬化の好発部位で、血管の中にアテロームと呼ばれるプラーク(脂肪の塊)が少しずつ沈着し、しまいには血管を閉塞させてしまいます。またプラークが剥がれて流れていくこともあります。頸動脈の先にあるものは、そう脳血管です。頸動脈狭窄症が原因で起こる脳梗塞は年々増加傾向にあります。これは高齢化、食生活の欧米化にともなって、高血圧、糖尿病、高脂血症などをもつ患者さんが増えていることと関連します。このような頸動脈狭窄症における脳梗塞予防のために、脳神経外科手術を行います。こちらにおいても外科手術(内頚動脈内膜剥離術)と脳血管内手術(頸動脈ステント留置術)の2通りの治療方法があり、個々の症例にて検討を行いながらバランスのとれた治療を行っています。頸動脈ステント留置術はステントと呼ばれる金属の筒を血管の中から進めて狭いところを広げる治療です。この治療は局所麻酔で可能であり、心臓合併症や呼吸器合併症をもつ患者さんには特に適していると思います。

脳動静脈奇形(AVM)、動静脈瘻(AVF)、脳腫瘍

脳動静脈奇形(AVM)に対しては開頭手術(摘出術)や放射線治療の全処置として栄養血管を塞栓します。また動静脈瘻(AVF)に対しては出血予防のための根治術として塞栓術を行います。脳腫瘍に対しては開頭摘出術の全処置として栄養血管を塞栓し、摘出術での術中大量出血を減じたり、腫瘍を壊死させることで摘出を容易にしたりします。

以上、脳血管内治療は患者さんにやさしい脳外科手術(低侵襲手術)として、ますます発展していきます。適応となる症例も拡大されるものと考えられ、現時点では治療困難であったものに対しても可能性を広げる治療と言えます。