診察・研究活動Activities

小児脳神経外科

長崎大学病院脳神経外科では、小児脳神経外科専門医の資格を持つ医師によりチームを作り、小児脳神経外科疾患に対応しております。胎児エコーやMRIで異常を指摘された出生前の症例から、新生児を含めたあらゆる小児脳神経外科疾患の診断と治療に対応します。とくに、小児科や形成外科、泌尿器科、放射線科などと緊密に連携を取り、多角的できめ細やかな対応を心がけております。中でも、先天奇形や水頭症、小児脳腫瘍、外傷などの疾患を多くの症例を経験しており、以下、これらの疾患について簡単に説明します。

図1:妊娠後期に見つかった胎児水頭症のMRI撮影です。母親の母体内の様子を観察しております。胎児は動きがあるので、特別な撮影条件が必要です。

先天奇形

先天奇形には、多くの疾患が含まれます。ほとんどの場合には奇形を認めても、無症状であったり、画像上の変化を認めたりしない場合には症状および画像上の変化を観察するのみでいいことになります。その代表的なものは、くも膜嚢胞です(図2)。先天性奇形を持つ場合に問題となるのは、奇形に伴って周囲の脳に影響して症状を出したり、髄液の還流を障害して水頭症を起こしたり、頭蓋内圧の亢進を認めたりする場合です。子供の発達、成長に合わせて症状および画像を観察し、場合によっては外科的介入を検討する必要があります。

頭蓋縫合早期癒合症、二分脊椎、脊髄脂肪腫、キアリ奇形については別項に記載します。

図2:比較的大きな鞍上部くも膜嚢胞の症例です(矢印)。頭囲の拡大を認め検査を行い指摘されました。この症例では水頭症の合併を認めたために内視鏡下に髄液腔と嚢胞との交通を付け、水頭症の改善が得られております。

頭蓋縫合早期癒合症

頭の形の異常で気づかれることが多い病気です。中には、頭蓋骨の縫合が早期に癒合することで正常な脳機能発達に影響を及ぼし、発達障害を呈するような疾患(症候群)も含まれます。赤ちゃんの頭蓋骨には、母親の産道を通って出生するために頭蓋縫合があります。頭の大きさは最初の1年間で急速に大きくなり、2歳ぐらいでその成長は落ち着きます。この間に頭蓋縫合が癒合してしまい、十分な頭蓋の発達が得られずに、中にある脳の環境が悪くなってしまうことを狭頭症と呼びます。整容面と脳が存在する環境としての面を考えて治療を行っていく必要があります。当院では、脳神経外科と形成外科でチームを形成してこれらの疾患の外科的治療を行っております。

図3:舟状頭蓋の症例です。頭頂部正中にある縫合線、矢状縫合の早期癒合を認めます。このために頭蓋は横方向に成長できず、縦方向のみに広がっております。

水頭症

頭蓋の中には、脳・血液・髄液が存在します。何らかの理由で髄液の割合が増えてしまった状態が水頭症です。水頭症の中には、髄液の交通が障害されて起こってくる非交通性水頭症と、髄液の交通には問題ないのに、髄液の産生過剰や吸収障害などによって起こってくる交通性水頭症があります。水頭症の原因を考えたうえで治療を組み立てていく必要があります。このために、シャント手術のみではなく、内視鏡を使った手術(第三脳室底開窓術など)や、水頭症の原因を取り除く手術(腫瘍摘出術など)、場合によっては頭蓋骨の手術(後頭蓋窩減圧術など)など、multimodalityでの手術を検討します。また、手術介入を行う時期を検討することも重要であり、頭蓋内圧亢進や頭囲の拡大を伴う場合には、緊急での外科介入を行うこともありますし、子供の成長や発達を見ながらご相談させていただくこともあります。

図4:新生児脳室内出血後に起こった水頭症の症例です。一番左の写真は出生直後に脳室内出血を起こした時の写真です。真ん中の写真ですが、数カ月の経過で脳室の拡大を認め、水頭症を呈してきました。この症例では、オンマイヤリザーバーで血液・髄液の排泄を図ったのですが水頭症の改善が得られないために右前角穿刺で脳室腹腔短絡術を行っております。一番右の写真ですが、5年以上が経過しておりますが、正常な発達が得られております。右前角にみられる白い点が脳室内のシャントチューブになります。

小児脳腫瘍

脳腫瘍の発生頻度は全体で1万人当たり1.5人とほかのがん腫と比べて多い疾患ではありません。しかしながら、小児の固形癌の中で一番多いのが脳腫瘍でもあります。小児腫瘍の多くは、外科的切除のみで治療が完結しません。放射線治療や化学療法などの集学的治療が必要になります。このため、小児科(血液・悪性腫瘍班)と緊密に連携を取りながら治療にあたっております。小児の脳腫瘍の手術に当たっては、5年先、10年先、50年先のことを考えて、脳にやさしい手術が行えるように心がけております。また、日本小児がん研究グループ(JCCG)へ症例の登録を行ない、臨床研究への参加を行っております。

症例1:髄芽腫(medulloblastoma)の症例

頭痛、嘔吐を認め来院されました。図5左側が術前の写真ですが、第IV脳室内に充実性の腫瘍を認め、このために小脳扁桃が下垂して大孔ヘルニアを起こしております。緊急で開頭腫瘍摘出術を行い、肉眼的には腫瘍の全摘出を行いました。右側が術後の写真で、画像所見上も残存腫瘍を指摘できません。遺伝子検査の結果、Group3の髄芽腫の診断で、放射線化学療法を行いました。わずかに複視を認めますが、ほか明らかな神経脱落所見を認めておりません。

症例3:胚細胞腫(germinoma)

頭痛、嘔吐、倦怠感のほか、口渇感と多尿を認め受診されました。鞍上部~第III脳室内に腫瘍病変を認め、髄液還流障害に伴う水頭症の所見を認めました。内視鏡下に腫瘍の生検を行い、germinomaの診断を得ております。同時にVPシャント手術を行い、水頭症の改善を図っております。3コースの化学療法と傍脳室系の放射線照射後に腫瘍は画像所見上指摘することができなくなっております。図7左側が初診時の造影MRIの写真です。右側が、生検術後に放射線化学療法を行った後の写真です。

症例2:胚芽異形成性神経上衣腫瘍(DNT)

けいれんで発症しております。脳腫瘍の25%程度は初発時にけいれんを認めます。腫瘍の摘出のみではなく、けいれんのコントロールも大事な手術の目的になります。図6左側が術前の写真、右が術後の写真で、腫瘍の摘出術後およそ10年間観察を行っておりますが、けいれんは良好にコントロールされております。(てんかんの手術の項目も参照されてください。)

小児の脳腫瘍には様々な疾患があります。小児脳腫瘍自体が希少がんの集まりであるといえます。標準療法が定まった疾患が少なく、個々の症例について十分に検討を行っていく必要があります。腫瘍ができた時の年齢や症状、合併疾患、水頭症の有無、腫瘍の場所や腫瘍の病理所見などなどを総合的に考えて治療を進めていきます。脳神経外科、小児科、看護スタッフ、緩和医療チーム、リハビリテーションスタッフ、メディカルソーシャルワーカーがチームとして対応させていただきますので、ご相談ください。

外傷

子供の頭部の外傷は、あってほしくないことではありますが、日常生活の中でもよく見られることでもあります。子供が頭をぶつけた場合には、打撲した直後は問題なくてもその後24時間のうちに出血や脳挫傷に伴う浮腫により症状が増悪する可能性があります。打った直後に問題がないと判断した場合でも、少なくとも24時間は十分に観察を行う必要があります。また、スポーツにより頭部を打撲することもあります。セカンドインパクトといって、頭部打撲を短時間のうちに繰り返した場合に脳腫脹や血腫の形成を起こしやすいことが知られております。スポーツで頭部を打撲した場合には、直ちにスポーツを中止して、十分に観察・休養を取る必要があります。受診いただいた場合は、受傷機転や病歴、身体所見をよく見させていただいて、CTやMRIなどの画像検査が必要であるかの判断を行います。

頭部外傷の観察の際には

  • 意識の変化がないか(声掛けへの返事など)
  • 四肢の動きがおかしくないか
  • しゃべり方がおかしくないか
  • 嘔吐がないか(突然噴水状に嘔吐をするときは直ちに受診ください)
  • けいれんがないか
  • 熱発がないか

ほか、増悪する症状がないかをみてください。

文責:吉田 光一

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