診察・研究活動Activities

神経幹細胞

1.はじめに

近年、幹細胞研究と組織工学の発展により各種疾患に対する再生医療、移植療法が脚光を浴びています。1990年代に、齧歯類、哺乳類において神経幹細胞の存在が証明され、頭部外傷、脳卒中などの損傷に呼応して、増殖、分化を繰り返し機能回復に作用していることが報告されました。すなわち、脳卒中において損傷された脳組織が自己再生能力を持っていることが明らかとなったのです。現在、脳卒中は寝たきりの原因疾患第一位であり、脳卒中後遺症で苦労されている知人がいらっしゃることと思います。残念ながら、麻痺などの後遺症に対する治療は今のところリハビリテーション以外になく、再生医療による機能再生が現実的課題となっています。

2.長崎大学脳神経外科の取り組み

長崎大学脳神経外科では長年脳卒中に対する再生医療の研究を行っております。スタンフォード大学脳神経外科と連携し、日本とアメリカで主にヒト神経幹細胞を用いた再生医療の可能性を模索してきました。これまでに再生過程のメカニズムにつき血管新生、シナプス進展、軸索新生の特徴を明らかにしました。臨床応用を視野に入れ長崎大学医学部基礎教室の協力を得ながら研究を継続しております。今後も脳卒中は増加傾向にあることが予想されます。脳卒中に対する再生医療をできるだけ早期に臨床応用へと持って行くことが我々の使命であると考えております。

これまでの研究内容

  • 脳梗塞後のマウス神経幹細胞の増殖能、分化能には至適条件がある(Horie. FEBS Lett. 2004, Horie. Cell Mol Neurobiol.2008)。
  • 脳梗塞におけるヒト神経幹細胞移植は移植細胞由来の血管内皮増殖因子にて血管新生、炎症抑制、行動機能回復を修飾する(Horie. Stem Cells 2011)。
  • 脳梗塞におけるヒト神経幹細胞移植は樹状突起構築や軸索伸長を修飾する(Andres and Horie, Brain 2011)。
  • 梗塞後の長期の行動評価法を確立し、幹細胞移植における有用性を確立した (Encarnacison and Horie, 2011) 。
  • 脳梗塞に対する幹細胞移植の時期特異性を示した(Ishizaka, Stroke 2013)。
    脳梗塞に対する幹細胞移植の至適量を示した(Fukuda, Cell Mol Neurobiol 2014)。
  • 脳梗塞後のシナプスの変化の解明、脳梗塞に対する幹細胞移植におけるシナプスの関与の示唆を報告した (日宇, 脳循環代謝, 2014) (Horie, Hiu, Neurologica Medico Chirurgico, 2015 )(Hiu, Brain, 2016)。
  • 幹細胞移植による神経機能回復はドナーの年齢に依存する(Yamaguchi, J Cereb Blood Flow Metab. 2017)

神経幹細胞を脳内に移植すると血管新生、抗炎症効果、デンドライト、アクソンの伸展、脳血液関門の修復が、シナプス増生が促進されます。
神経幹細胞を移植すると脳梗塞側だけでなく対側(健側)の脳も活性化されます。

3.獲得研究費

若手研究B(2011-2013)
脳梗塞における幹細胞移植療法の効率効果向上を目指した時期特異性、領域特異性の解明
若手研究B(2013-2014)
脳梗塞に対する幹細胞移植後の機能回復の内在性修復メカニズムの解明
基盤研究C(2014-2017)
脳梗塞治療効果の飛躍的向上への挑戦~急性期薬物治療と幹細胞移植の融合
若手研究(B)(2014-2015)
投与細胞の違いに着目した脳梗塞に対する幹細胞移植投与方法の確立
基盤研究(C)(2013-2015)
必要十分細胞数に着目した脳梗塞に対する骨髄間葉系幹細胞移植投与方法の確立
基盤研究C(2014-2017)
脳梗塞治療効果の飛躍的向上への戦略~急性期薬物治療と幹細胞移植の融合~
基盤研究C(2016-2019)
脳梗塞に対する幹細胞療法のシナプス増生のメカニズムの解明
基盤研究C(2018-2020)
脳梗塞に対する細胞移植・再生医療における健常対側大脳半球の制御メカニズム解明
若手研究B(2019-2020)
脳梗塞に対する脂肪細胞由来幹細胞移植投与方法の確立と健側の役割の解明
基盤研究C(2020-2022)
脳梗塞に対する幹細胞移植後の機能回復に関連する脳可塑性の解明

そのほか

文責:日宇 健

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