診察・研究活動Activities

悪性脳腫瘍の手術と化学療法

頭蓋内にできる新生物の総称が脳腫瘍です。その種類はWHO2016分類では200ほどの非常に多くの種類があります、一方で脳腫瘍の発生頻度は肺がんの1/10ともいわれており、脳腫瘍は希少がんの集まりであるともいえます。このため、世界中の専門家が最もいいと考える治療方法である標準療法が定まっていない脳腫瘍も多くあります。

脳腫瘍の治療を始めるにあたって重要なことは、実際に腫瘍の組織を採取したうえで病理診断や遺伝子診断を行うことです。この結果をもとにして、治療を決定したり、予後の予測を行ったりということが可能となります。当院では、病理診断科の協力のもと術中迅速診断、原研内科の協力のもとFACS解析を行っており、手術中に組織診断を行うことでより適切な摘出範囲・摘出量の判断も行っております。

写真:左の写真は、脳梁膝部から左右の前頭葉に広がるように発生した膠芽腫の症例です。両側前頭開頭で手術を行い、大脳鎌を切開して体側の病変まで摘出しております。右は術後の写真になりますが、画像上造影されていた病変はほぼ摘出されております。また、圧排されていた側脳室前角部も広がっており、脳の圧排が解除されていることが確認できます。

最終的な病理診断の結果が出るまでには手術後10日~2週間かかります。採取した組織をホルマリン固定して、パラフィン包埋したうえで薄切して診断します。また、免疫組織化学染色を行い、遺伝子的背景の診断を行います。神経膠腫を疑う場合には、染色体検査(1p19qLOH解析)を行っております。また、がんパネル検査も積極的に行っており、症例によってはFoundationOne®を用いての検査をおすすめしております。

写真:術前に画像所見を統合して詳細に手術計画を立てることも重要です。術前のMRI画像および3DCTAより左は腫瘍(黄色)、静脈(青色)、右は腫瘍(黄色)、動脈(赤)を描出して3D構成を行い、重要な血管を損傷しないように腫瘍を摘出する計画を立てているところです。

手術の目的は①病理組織診断②腫瘍細胞数を減らす③頭蓋内圧をコントロールする この3つになります。この3つすべてを目指すのが開頭腫瘍摘出術になります。合併症により手術が困難である場合や、手術により意識障害や麻痺などが出てしまう可能性が高いと考えられるときは、①病理組織診断のみを目的として、生検術を提案させていただくことがあります。生検術の方法は、開頭生検術、定位脳腫瘍生検術、内視鏡下腫瘍生検術などがあります。場合によっては髄液を採取して、髄液中の細胞から細胞診を行う場合もあります。

写真:定位脳腫瘍生検術の様子です。ナビゲーションシステム誘導下に、あらかじめ刺入点と組織採取の目的部位を設定してこれを結ぶ直線上に生検針をセッティングします。トラクト上に問題となるような構造物がないことを確認して、慎重に生検針を進めていきます。陰圧をかけて組織を採取します。

悪性脳腫瘍に対して開頭腫瘍摘出術を行う際には、腫瘍細胞をできるだけ減らすことによって生命予後の延長が得られることが分かっておりますので、できるだけ多くの腫瘍を摘出できるように計画します。一方で、脳には機能がありますので腫瘍細胞をとればとるほど正常な脳にもダメージを与えてしまうことになります。必要な脳の機能を温存するために、脳の機能をモニタリングしながら最大限の摘出を行っていく必要があります。脳機能の温存のために、長崎大学脳神経外科ではMEP(脳を刺激して運動神経の伝達に問題がないか筋電図を見る検査)やSEP(体を刺激して、それが感覚神経を伝達して脳波の変化として脳でとらえられるかの検査)、VEP(光で目を刺激して、それが視覚神経を伝達して脳波の変化として脳でとらえられるかの検査)などのモニタリングを行っています。また、必要な場合には、麻酔科の協力のもと、覚醒下手術で脳の局在診断を行い脳機能のマッピングを行ったうえで摘出範囲を決定し、症状を確認しながら摘出を進めております。(覚醒下手術の項をご参考ください)

長崎大学脳神経外科では、手術支援としてニューロナビゲーション(ナビゲーションの項をご参考ください)や術中超音波検査を全症例で行っております。また、悪性神経膠腫が疑われる場合にはアラベル®(5ALA:蛍光によるがん細胞診断)を用いております。

悪性神経膠腫が疑われる症例に対しては、術中迅速診断で確認を行ったうえでギリアデル®(BCUNwafer:抗がん剤をしみこませた器質材)を腫瘍摘出腔に留置して局所療法を行う場合もあります。基材より抗がん剤が染み出すことにより、手術で摘出のできなかった腫瘍病変に対して局所治療を行うことが可能となります。悪性神経膠腫では放射線化学療法を行っても再発が見られることがあり、再度手術を行うことで症状を緩和できたり、予後の改善が期待できたりする場合には、ご相談のうえで再発病変に対しても手術療法の相談をさせていただきます。

文責:吉田 光一

診察・研究活動へ戻る