診察・研究活動Consultation and Research Activities

脳腫瘍

脳腫瘍とは

脳腫瘍とは、その脳や脳をとりまく組織にできる腫瘍の総称で、さまざまな種類があります。大きくは脳とその周囲組織から発生した原発性脳腫瘍と、他の臓器に発生した腫瘍が脳に転移してきた転移性脳腫瘍とに分類されます。

原発性脳腫瘍はさらに発生部位により脳実質内腫瘍と脳実質外腫瘍の2つの種類に大別されます。

脳実質内腫瘍は脳実質を構成する神経細胞やグリア細胞などから脳内に発生します。境界が不明瞭であることが多く、手術により腫瘍全てを摘出することが困難であることが特徴です。

代表的な脳実質内腫瘍に神経膠腫や悪性リンパ腫などがあります。

脳実質外腫瘍は脳表を保護している髄膜に発生する髄膜腫や各種ホルモンの調節に関与する下垂体に発生する下垂体腺腫など、脳実質以外の組織から発生します。脳実質と境界明瞭であることが多く、手術による全摘出を目指します。

脳腫瘍のもう一つの分類として、「悪性」と「良性」に分ける方法があります。

「良性」腫瘍は比較的緩徐に増大しますが、「悪性」腫瘍は浸潤性かつ急速に増大し、手術・放射線治療・化学療法などの治療に抵抗性が高いのが特徴です。

脳腫瘍の発生頻度

日本国内での原発性脳腫瘍の発生頻度は、日本脳神経外科学学会2009年版脳腫瘍全国集計調査報告では@@@@@、2000年の長崎県における原発性脳腫瘍の登録症例では人口10万人当たり約15人でした。アメリカでの発生率は1991年から1995年の統計で人口10万人当たり15.7人でした。

脳腫瘍の症状

脳腫瘍の症状には主に2つの機序が考えられます。

一つは頭蓋内圧亢進症状で、脳腫瘍による圧排や脳浮腫で頭蓋内圧が上昇して頭痛や嘔気・嘔吐、うっ血乳頭による視力低下などが出現します。

もう一つは局所神経症状で、脳腫瘍による圧迫や組織破壊よって中枢や神経線維が障害され、麻痺や知覚障害、小脳失調、けいれん発作などが出現します。

脳腫瘍が増大して圧迫や組織破壊、周囲組織の脳浮腫などにより意識や呼吸の中枢である脳幹部が障害された場合を脳ヘルニアといい、治療を行わないと意識障害が進行して死に至る可能性があります。

脳腫瘍の診断

上記の症状が認められた場合や、脳ドックなどで偶然脳腫瘍が発見された場合には、当科外来にてまず問診・診察を行い、持参された画像なども参考にして、主に以下の検査を行います。

脳腫瘍の精査には次のようなものがあります。

  • 1.頭部CT・MRI

    脳腫瘍の部位・性状を調べます。造影剤を使用することもあります。

  • 2.脳シンチグラム

    特定の物質の集積を調べ、脳腫瘍の性状を調べます。

  • 3.脳血管造影検査

    周囲の重要な血管との位置関係や脳腫瘍の栄養血管を調べます。

  • 4.脳波検査

    けいれんの原因となる脳波異常を調べます。

  • 5.病理組織診断

    手術による摘出が必要で、治療を兼ねて行われることがほとんどです。最終的な診断はこの病理組織診断で行われます。

1.~4.は外来でも可能な検査ですが、手術を前提に入院して行うこともあります。

脳腫瘍に対する治療

治療として主に下記のような方法を、病状や診断に応じてそれぞれを組み合わせて行われます。

1.手術による摘出術

開頭し、直接脳腫瘍の摘出を図ります。

症状の悪化や新たな合併を軽減するため、当科では下記のような手術補助手技を手術前や手術中に導入して腫瘍摘出術を行っています。

手術補助手技
血管内手術
腫瘍の栄養血管を閉塞し、腫瘍壊死・術中の出血軽減を図ります。
覚醒下開頭腫瘍摘出術
特殊な麻酔を用いて、手術中に患者さんに目を覚まして頂き、術者と直にコミュニケーションをとることで、運動・知覚神経の損傷を回避します。
ナビゲーションシステム
手術前の画像検査情報を用い、手術中に脳腫瘍の位置を特定し、脳の奥深くの神経の損傷を避けて、可能な限りの腫瘍摘出を図ります。

2.放射線治療

術後に残した腫瘍や手術不能な場所にある腫瘍に対して放射線を照射し、腫瘍の縮小を図ります。

当院では高精度最新鋭ライナックシステムを用いた定位放射線手術が可能であり、放射線を目的の領域に集中的に照射することで正常脳組織への被曝を最小限に抑えた放射線治療を行うことが出来ます。

3.化学療法

脳腫瘍に対する薬物療法は、良性の脳腫瘍では一部の下垂体腺腫などで効果を認めるのみで、化学療法の適応は限られています。悪性の脳腫瘍の場合は、一般的に手術で出来る限り摘出した後、その後の補助療法は必須です。基本的には放射線治療に化学療法を併用した集学的治療を施行しており、有意な生命予後の延長が確認されております。

脳腫瘍の病態は多彩で、かつ症例ごとに異なるため、各種検査・治療を組み合わせた適切な治療を選択したうえで、その内容を詳しくご説明し、ご理解と同意のもとに治療を行います。

私たち脳神経外科においても脳腫瘍に対する最良の治療法の研究・修得に励み、皆様にご提供できるよう努める所存です。

(文責:鎌田 健作)