診察・研究活動Consultation and Research Activities

脳梗塞に対する幹細胞移植を用いた再生医療

1.はじめに

近年、幹細胞研究と組織工学の発展により各種疾患に対する再生医療、移植療法が脚光を浴びていることは周知の通りです。中枢神経系においてはノーベル医学・生理学賞のカハール教授が、”成体哺乳類の中枢神経系は損傷を受けると二度と再生しない”という報告を1928年に行って以来、セントラルドグマとして定着していました。しかしながら、1990年代に入り、齧歯類、哺乳類において神経幹細胞の存在が証明され、頭部外傷、脳卒中などの損傷に呼応して、増殖、分化を繰り返し機能回復に作用していることが報告されました。すなわち、脳卒中において損傷された脳組織が自己再生能力を持っていることが明らかとなったのです。現在、脳卒中は寝たきりの原因疾患第一位であり、読者の中にも脳卒中後遺症で苦労されている知人がいらっしゃることと思います。しかし残念ながら、麻痺などの後遺症に対する治療は今のところリハビリテーション以外になく、再生医療による機能再生が現実的課題となっています。

2.長崎大学脳神経外科の取り組み

長崎大学脳神経外科では2002年より脳卒中に対する再生医療の研究を行っております。スタンフォード大学脳神経外科と連携し、日本とアメリカで主にヒト神経幹細胞を用いた再生医療の可能性を模索してきました。これまでに再生過程のメカニズムにつき血管新生、シナプス進展、軸索新生の特徴を明らかにしました。臨床応用を視野に入れ長崎大学医学部基礎教室の協力を得ながら研究を継続しております。幸い、日本においても実際に脳梗塞に対する再生医療(骨髄幹細胞移植)の気運が高まっており、長崎大学は国内での主要施設の一つとして位置づけられており、現在ガイドラインを作成中です。今後も脳卒中は増加傾向にあることが予想されます。脳卒中に対する再生医療をできるだけ早期に臨床応用へと持って行くことが我々の使命であると考えております。

これまでの研究内容

  • 脳梗塞後のマウス神経幹細胞の増殖能、分化能には至適条件がある
    (Horie. FEBS Lett. 2004, Horie. Cell Mol Neurobiol.2008)。
  • 脳梗塞におけるヒト神経幹細胞移植は移植細胞由来の血管内皮増殖因子にて血管新生、炎症抑制、行動機能回復を修飾する(Horie. Stem Cells 2011)。
  • 脳梗塞におけるヒト神経幹細胞移植は樹状突起構築や軸索伸長を修飾する(Andres and Horie, Brain 2011)。
  • 梗塞後の長期の行動評価法を確立し、幹細胞移植における有用性を確立した (Encarnacison and Horie, 2011) 。
  • 脳梗塞に対する幹細胞移植の時期特異性を示した(Ishizaka, Stroke 2013)。
  • 脳梗塞に対する幹細胞移植の至適量を示した(Fukuda, Cell Mol Neurobiol 2014)。

神経幹細胞を脳内に移植すると血管新生、抗炎症効果、デンドライト、アクソンの伸展、脳血液関門の修復が促進されます。

神経幹細胞を移植すると脳梗塞側だけでなく対側(健側)の脳も活性化されます。

神経構築を立体的に解析しています。
(青:神経核、緑:神経細胞、赤:シナプス)

今後の研究内容

3.獲得研究費

  • 平成18年度日本学術振興会海外特別研究員事業、外科系臨床医学・脳神経外科学. 代表研究者:堀江信貴、派遣先:米国スタンフォード大学
    「神経幹細胞の虚血反応の脳領域特異性を生み出す分子機構の解明と臨床応用に向けた研究」
  • 若手研究B (平成23-25年度)、代表研究者:堀江信貴
    「脳梗塞における幹細胞移植療法の効率効果向上を目指した時期特異性、領域特異性の解明」
  • 基盤研究C (平成26-28年度)、代表研究者:堀江信貴
    脳梗塞治療効果の飛躍的向上への挑戦~急性期薬物治療と幹細胞移植の融合
  • ライフサイエンス振興財団研究助成 (平成21年度).代表研究者:堀江信貴
    「脳梗塞に対する血管内治療を用いた神経再生療法―内在性修復メカニズムの解明及び効率性を考慮した再生医療の可能性―」
  • 平成26年度 若手研究(B) (平成26-27年度)、代表研究者:山口 将. 投与細胞の違いに着目した脳梗塞に対する幹細胞移植投与方法の確立
  • 平成25年度 基盤研究(C) (平成25-27年度)、代表研究者:福田雄高. 必要十分細胞数に着目した脳梗塞に対する骨髄間葉系幹細胞移植投与方法の確立

(文責:堀江 信貴)